2006年10月02日

数年ぶりの書道

 最近、作らなきゃならないものがいくつかあって、ちまちまそれをやってます。まず朗読用のテキスト。年内に数個、新作を準備しなきゃならない。
 それからチラシのデザインが2枚。私はイラストレータとか使えないから、ワープロやフォトレタッチソフトでの作業です。知人から「イベント名を毛筆にしては」というアイデアを貰っていたので、数年ぶりに書道セットを出してきて毛筆もやりました。

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 毛筆って難しいですね。すごくうまく書けたものもあったんですが、よく見たら数字が違っおり、結局何度も書き直しました。
 うまくいったやつを隣において、同じように同じ風に書いてみる……んだけど、同じにならない。何か違う。ぱっと見は似た形なんだけど、印象が微妙に違う。書き直したほうは自然じゃない。しっくりこない。どこかせせこましい。縮こまってる。一方、先に書いたミステイクの方は『うむ、これだ』と納得できる。安定感がある。でも見慣れてしまわずに、毛筆の味やインパクトがグッと出張ってもいる。しかし不快なインパクトじゃない。
 どう見てもほとんど同じなんですが、実際に並べてみるとえらく違う。言葉じゃ説明できない。ただ“なんとなく”こっちがいいとか、悪いとか、断言できてしまう。『どれも同じ言葉が書いてあるけど、そりゃこっちよりこっちの方がいいでしょ』と。

 何枚も書きました。筆に付ける墨汁の量を変えて、滲ませてみたり、かすれさせてみたり。生真面目に止め跳ね払いをしてみたり、草書体風の速記をしてみたり、丸文字をイメージしてみたり。筆を置いたときよりも、筆を上げた時を太くしてみたり。紙をコピー用紙にしてみたり。筆を変えてみたり。

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 何度も試して、まずまず満足のいく題字ができました。30枚ぐらい書いたかな。チラシに使うのは1枚だけなので、チラシだけ見た人は「若原君、字うまいね」と思うかもしれないな……うーむ。

 小学生の頃は、書道って大嫌いでした。まず、効率的でない。書道セットは文鎮やらスズリやらが入っていて小学生には重い。墨汁という、鞄の中で大災害を起こしかねない液体も必要になる。周辺を不意に汚すし、完成品の保管も難しい。
 第2に、意味がない。いつか役立つわけでもない。字がうまくなるなんてこともない。いい毛筆が書けたとして、それがいったい何の役に立つのやら。売れもしなければ点も貰えない。授業だからってことで書くけれど、なんにもならない。
 第3に、美しくない。毛筆は不気味で怖い。意図せず滲み始めたり、急にかすれたり。教室の壁に並べて貼られるとさらに怖い。白黒のコントラストの強さ。太さ細さの急激な変化。模様としてみても、なんだか気持ちが悪い。
 第4に、不公平。よい紙よい筆を使わないといい線が引けない。リトライも修正も許されていない。ただただ一発勝負で、しかし「集中してゆっくり書くように」と言われる。採点基準もルールも指針も不明確なのに、結果は出てしまう。納得いかない。

 今回、ひさびさに書道をしてみて……面白かったです。きれいな字を書こうとすると失敗の連続でムカムカしますが、見栄えのする字を書こうとすると『おっ、いいとこ行った!』の連続で面白い。『この曲がりにも味があるけど、こっちの方が収まりがいいな。でもいま必要なのは……こんな字だッ! どーだ! ああ、惜しい!』って。ニアピン連発で、テンションが下がらない。のめりこんでしまう。
 子供がいろんな制約の中でやる書道はあんまり楽しくなさそうですけど。大人になって紙や時間が自由に使えるようになると、面白くなるのかもしれません。非効率的で役に立たないのは変わらないんですが。

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 単純に「普段と違う道具を使うのが面白い」ってのもあったのかな。私は最近たまに万年筆を使っているんですが、これとちょっと似ているような。新しい道具で文字を書くと自分の字に見栄えがして、ついうぬぼれてしまう、うかれてしまう。書くのが面白くなって、どんどん無意味に書いてしまう。なんでもいいから書きたくなってしまう。

 チラシの素材はできたし、書道セットも片付けてしまいましたが。『ついでにもっと何か書いてから片付ければよかったかなあ』と名残惜しさも感じています。何か書くことがあったかな……思いつかないんですが。
posted by 若原光彦 at 03:04 | Comment(2) | TrackBack(0) | 近況

あかるい悪夢

 妙な夢を見ました。図書館の図書室で『俊読』をやっているという。

 学習室とかホールとかではなくて、図書室。本棚がいっぱい並んでいて、窓がでかくて日当たりが強くて、明るくて暖かくて、狭い。テーブルをどけて作ったような、数畳ほどのスペースに目一杯パイプ椅子が並べられており、そこが会場になっている。ステージは窓際の通路。ステージ脇には谷川さんや桑原さんが無表情で座っている。私は出番を控えており、客から見えないよう、会場から数メートル離れた本棚の後ろに隠れている。

 誰かのリーディングが終わって、司会の女性(顔は見えない。声にも聞き憶えがない)が「ありがとうございました。次は○○さんです」といった簡素なMCをした。『自分の番か』と身をこわばらせたが、違ったらしい。某さんが本棚のあいだからステージに出て行った。
 某さんのリーディングが終わると、司会の女性が再び簡素なMCをした。「ありがとうございました。次は若原光彦さんです」。今度は本当に私の番らしい。『よし行くぞ』と私が出て行こうとすると司会の女性がポソッと何かしゃべり始めた。『うわっ、まだだったか』と私は慌てて本棚に身を戻した。すると女性がしゃべるのをやめた。『終わったか。今だ』と私は再び出て行こうとする、とまた女性がちょっとしゃべった。タイミングが掴めない。気まずい。
 『もしかしてこの司会の人は、私が出てこないから場繋ぎとして話してくれてるのかな。だとしたらこのまま女性がしゃべり終わるのを待っていても無駄だな。出て行かなきゃ』。女性はまだ何かポツポツ言っていたが、私は本棚の間から飛び出しステージ側に歩んだ。ステージの両脇には、谷川さんや桑原さんが当初からの無表情で座っていた。
 ステージに立って客席に顔を向けると、これまた全員が無表情だったので背筋が凍りついた。そういえばここまでの演目で、一度も拍手の音を聞いていない。いったい、何が起きている。
 私はマイクを握り『いやぁ〜こういう密集した場所でやるのも緊張しますねぇ〜』とか下らない、言わんでいいことを照れ隠しに語り始めてしまう。全員の無表情が突き刺さる。異様で、圧倒的で、意味不明で恐ろしい。冷や汗がツーッと背中を流れた。室内は明るくポカポカとしているのに、悪寒がして止まらない。

   *

 そこで目が覚めました。目覚めたら汗だくでした。先週ちょっと風邪を引いたものだから、最近ふとんや室内着を厚めに変えたんです。この日、私はトレーナーを着て、冬布団をかぶって寝てました。そりゃ汗だくにもなるわなぁ。
 しかし怖い夢でした。考えようによっては豪華で、平穏で、何事もなくて、面白い状況だったのかもしれないけど。なにも『曲々玉々』が迫った今あんな夢見なくてもなぁ。いや、今だからこそ見たのかな。
posted by 若原光彦 at 03:02 | Comment(1) | TrackBack(0) | 近況