2004年11月13日

ライター

 以前、炭酸水について書いたときにも触れたことだが、あらゆる嗜好品はその嗜好そのものだけでなく、その嗜好に対する倒錯(思い込み)によって選択され消費される。「おいしい」とか「気持ちいい」とか「好きだ」だけが理由なのではなく、それを選択し消費する「そんな自分自身が好き」だから選ばれる。嗜好品とはそういうものだ。
 それは例えばサーフィンであり、炭酸水であり、煙草である。ブーツであり、銀食器であり、楽器である。嗜好品は生活必需品ではない。嗜好品は効率や機能性とは無縁だ。尺度は人によって違うだろうが、大なり小なり(機能そのものだけでなく)倒錯を求めて使用される。

   *

 というしかめっつらしい前置きで何を書こうというのかというと。

 電子ライターが苦手だ。あの「パチッ」という音が気に入らない。オープンマイクなどで煙草に火を点けようというとき、周囲の集中をそがないよう目立たない動作を勤めているのにさいごに「パチッ」と高音が鳴る。これは困る。
 あれは異物の音だ。不意の音。「何だ?」と人を振り向かせてしまう音だ。何かのスイッチ音にも似ている。よろしくない。
 私はライターは、火打石式のものしか使わない。あの音は好きだ。「じじ・しゅばっ」。聞いただけでライターの音だとわかるから、人を振り向かせることが少ない(何の音だかわからない音だから人は振り向く。意味のわかる音はそれ以上追求されない)。

 ではジッポーライターはどうか、といえば、あれはちょっと重厚長大すぎやしないか。かっこいい、とか、雨の中でも火が消えない(本当かどうか私は知らない)、とか、利点はあるのだろうが私は好きになれない。ジッポーを持ち歩くぐらいなら、そのぶん『HOPE』を一箱持ち歩きたい。いや、その余裕っぽさがジッポーのかっこよさなのか。ポケットの容量など気にしている私のほうがどうかしているのか。

 一時期はマッチも使っていたが、紙マッチにしろマッチ棒にしろ、あれは動作が少々いやみだ。外で使うことはあまりない。マッチを擦ると悦に入れるが、どうにもわざとらしくって気恥ずかしい。マッチの音と光は好きだが、あまりに倒錯的で困る。

   *

 なにで煙草に火を点けるか、というのは煙草飲みにとっては重要な問題で、ライターひとつとっても趣味嗜好があるわけだ。
 ちなみにいま私が使っているのはコンビニで購入した火打ち式のライター。黒とか灰色とか地味な色が良かったのだが店頭に無かったので青色のものを買った。100円ライターというのは意外と寿命が長く、なかなか使い切れない(買い換えられない)ので我慢してそのまま使っている(製造メーカーや使用上注意が書かれたシールを剥がしてみたら見てくれが安っぽくなくなった。満足はしていないが、許せる状態になった)。

 このライターに色を塗ればいいのではないのか、と時々おもう。油性ペンでぐりぐりと黒く塗ってもみすぼらしいだけだろうから、それはやらないが。紙やすりでもかけてみようか。ガムテープでも巻いてみようか。考えすぎといえば考えすぎだ。
posted by 若原光彦 at 22:18 | Comment(0) | TrackBack(0) | 雑感
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