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……とそのときは思いましたが、今こうして写真で眺めていて気づきました。はしごのそばにひとつ窓がありますね、ここから登るんでしょうか。映画顔負けの危険なスタントが要求されます。そうまでして登った先に、いったい何があると言うのでしょう。この日はとても良い天気で上空には青い青い空が無料で食べ放題でしたが。
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……疲れました。なぜか。なぜだろう。そんなに何かしたわけじゃないんですが、疲れました。会が終了してから、市民会館の喫茶室でしばらく煙草を吸っていました。みなさんは帰られたり、懇親会に向かわれたりして、私と林本ひろみさんの2人だけ残って休んでいました。
「このあとどうする?」
『どうしようか。懇親会に行ってもな」
「明日も出かけるんでしょ」
『そう。大須の七ツ寺共同スタジオというところ』
「大変やね」
『ああ、そうか。大須のは今日も上演してるんだから、今日いまから行って観ればいいんだ。そうすれば明日はゆっくり休める』
というわけで、私は大須に向かうことにしました。林本さんもついていらっしゃいました。帰り道で、上記のあの「たすけてー」の看板を林本さんに教えてあげました。ポーズがいいね、足を曲げて重心をかけてる様子がなんとも良い、ということで意見が一致しました。採択されました。へい。
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おおお大須(注。キータイプをミスしてこうなりました。面白いのでそのまま残します。さておき、大須)へ到着。しかし肝心の『七ツ寺共同スタジオ』の場所がわからない。すっかり暗くなってしまっているしビル街だしで、どちらが南かもわからない。仕方がないのでコンビニに入って帝位陰惨(「てんいんさん」とするつもりで「ていいいんさん」と打ってしまい変換したらこうなりました。ド迫力なので残します。もとい、店員さん)が帝王のように尊大な態度で諭してくれました。店の裏側からは拷問にかけられた罪人のうめき声が漏れ聞こえていました。私たちはそそくさとそのコンビニを出ました。コンビニから出たところで私の靴裏にプチッとした感触がありました。足を上げて確認すると、大きな蜘蛛が潰れていました。黄色と黒の縞模様のまがまがしい蜘蛛でした。
……というこの場面は真実と嘘が混在しています。遠心分離機にかけて解釈して下さい。重いものが外側に、軽いものが中央にペシャンコになります。なりましょう。
駄文はさておき(みそ汁にえのき)。無事『七ツ寺共同スタジオ』に到着。でもまだ開演まで30分以上ありました。周囲を見回すと、道のまっすぐつきあたりにおもちゃ屋さんが見えました。林本さんにたずねました。
『まだ時間ありますけど、おもちゃ屋さんでも見てみます?』
いいよ、ということで大須のアーケードへと向かいました。おもちゃ屋さんにはいろんなものがありました。大仏のぬいぐるみ(超特価1500円。目つきがやらしい。手にサイコロを持っており、電池を入れるとおみくじをしてくれる有難い(アリ型迷惑な)仏さま)とか、駄菓子とか、マジックハンドとか、マイメロディの黄ばんだお面とか、あごのところがツヤツヤと青色に光ったポパイのお面とかがありました。
あと、帽子屋さんやアンティーク雑貨屋さん、古着屋さんも冷やかしました。古着屋さんでは1着100円というワゴンセールが開催されてました。結構いい服も入っていましたよ。松尾伴内が大推薦しそうなやつ。ナイロン地がテラテラと雪化粧のように輝く肌着。素敵すぎる。危うく買ってしまうところでした。
どうでもいいですが、タレントの優香は、名古屋の大須で買い物するのが好きなんだそうです。以前テレビで言っていました。……いや、優香じゃなかったかもしれない。SAYAKAとか上戸彩とかだったかもしれない。いずれにしても疑問の残る。

「よくそんなの見つけるねえ……」
『まあねえ。下ばっか見てあるいてんねやろうなぁ』
「そうかあ、それで私には見つからないんだあ」
人生前向きだそうです。良いことです。
『うむ。こういう能力を生かした職業とかってないかねえ』
「どんなんよ、それ」
『わからん(笑)』
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舞踏は、言語化しにくい感じでした。コンテンポラリーというのとは違うのかな。私は詳しくないからよく分からないけれど。解釈に正解がないような、アングラなトーンの2時間半でした。人間の体の魅力を見たときもあれば、人間の醜さ、不細工さ、気持ち悪さを実感したときもありました。
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終演後しばらくして、会場から出て、路上で煙草を一本吸って(なぜかむねさんが2回通り過ぎていったりして)から、……林本さんと地下鉄の駅で別れ、帰りました。
岐阜で電車から降りて駅のホームへ立ったとき『ああ、もう動きたくないな』と思いました。ゴミをゴミ箱に捨て、喫煙コーナーで煙草を吸いました。疲れました。意識もぼんやりしています。顔がうつむき、足元に視線が落ちます。面白いものなんかそこにはありません。アスファルトが張られているだけです。
ですが、アスファルトの一点に光るものがありました。100円玉だ。少し離れてもうひとつ、こちらは50円。……やりィ。もうけ。
そしたらお巡りさんが、「ボク、ええ子やねえ」と言いつつ調書を作成してくれて、半年たって落とし主が現れなかったら、その150円は晴れてあなたのものです。確か、そうです。
昔、息子が小さい頃にそのようにしました。で、半年たって警察に取りに行くのがめんどくさくて、行きませんでした。あらら。
私が小さい頃、10円拾って交番に届けたら、お巡りさんはその10円は引き出しにしまって、自分の財布から10円出してくれました。
で、友だちと一緒にいろんなものを拾っては、交番に持ち込んだものです。迷惑な子どもです。今と変わりませんね。
でもたぶん、そのお金はあなたのポケットから落ちたものですよ。