2005年02月01日

書籍『現代詩手帖2005年2月号』

 最初に言っておきます。私は詩誌が好きではありません。あれはジャーナルやトピックスとしては冗長で「現状をレポートしたもの」と言うより「詩学者の専門誌」です。
 好きな詩人の特集があっても、難解な用語と「○○で一度お会いしたことがあるが」といった権威めいた私語で構成され「能書きはいいから作品を読ませてくれよ!」とイライラします。でも向こうは「図書館で読め」というスタンスで、全くニーズが合いません。
 投稿欄は傾向も選別基準も不明瞭で、自分が投稿する気にはなれません。詩の雑誌なのに詩作品は数編しか載っていなかったり、特定の人物の連載が数号にのさばっていたり。面白く読める人間が限られていて、かつ割高。ぜんぜん買う気がしません。

 そんな私にとっても、今回の『現代詩手帖』は興味をそそるものでした。値段はやっぱり割高に感じましたが、文章の密度は濃いし、そもそも専門誌だし。承服はできませんが、尊重できなくもないです。

   *

 面白かったのは、特集が『詩の森文庫』への反応によって組まれていたためです。『詩の森文庫』とは「入門から専門へ」をキャッチコピーとし、詩への入口、詩への導き手となるべく創刊された新書シリーズのことです。1月にスタートの10冊が刊行されています。
 この『詩の森文庫』を語るということは、10冊のラインナップやその内容・作者に感想することでもあり、「入門者」を語ることでもあり、「詩の現状」を論じることでもあります。普遍的かつ多様な内容だった訳です。新シリーズへの期待や、未来への希望も込められていて明るい雰囲気だったのも好印象でした。
 多数の人物が文章を寄せていますが、私がいちばん面白かったのは──

 詩を読むのは苦手だ。反感を買うのを承知での上で書くと、さほど好きでもない。
 三年前に詩を書きはじめるまで、あまり詩を読んだことはなかった。


──という書き出しで始まる小池田薫さんの文章でした。エッセイとしても読めるし、そもそも『詩の森文庫』はこうした人に向けてのものなんでしょうし。難解に「吉本隆明がどう、谷川雁がどう」と進む文章より意味を感じました。あくまでも「私は」ですが。

   *

 もうひとつの目玉が加藤典洋さんの講演を掲載した「私にとって詩とはどういうものか」という記事です。このタイトルだけで惹かれるじゃないですか(笑)。
 内容は「難解詩とライト・ヴァースの二極化」にコメントするという、興味を引くものでした。講演を起こしたものということもあり、平易で読みやすかったです。最後に観客から「詩は教えられるか」と問われて「教えられない、ということは教えられますね」「詩は教えられないってことをあなたはどういうふうに教えるのか、という問いもあるだろうし」なんて答えていたり(笑)。面白いなあ。

 新人の投稿欄も面白かったです。全編に「現代詩」色である雑誌が、ここだけノンジャンルな「今の詩」色をしている印象でした。ネットで名前をお見かけする最果タヒさんの作品が載っていたり。雑誌らしいライブ感がありました。

   *

 ……と「面白かった点」だけ挙げて。最後に、念のため記しておきます。

 やっぱり、面白くない記事もたくさんあります。あいかわらず難解で専門的です。専門性に触れることで自分のキャパシティが上がる、なんてことも無いです。一部の人に向けての限定的な雑誌です。
 なのに感想を書いたのは「私は珍しくこんな本を読んだ」「珍しく面白く読めた」という雑記としてです。『現代詩手帖』を皆さんにおすすめする訳では決してありません。早まってネット注文とかしちゃ駄目ですよ、大きめの図書館で立ち読みして「ふう」と思い、それでも読みたければ読む。物好きの本です。

 そうそう。今回、装丁がとても綺麗でした。緑の色調が渋く、鮮やか。写真に奥行きがあって、ツンとした空気が漂っていて。素敵です。文学的な、落ち着いたクールなカッコよさを体現しています。持ち歩けば頭が良さそうに見えるかも(笑)。

   ◆

書名:現代詩手帖2月号
発行:株式会社思潮社
2005年02月01日発行
雑誌03443-2(定価1200円・本体1143円)
posted by 若原光彦 at 22:58 | Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍
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