2005年04月02日

書籍『midnight press・2000年夏号』

 これも先日の古本即売会で手に入れた本です。2000年夏号だそうで、2000年2月ごろの対談や3〜4月ごろの文章が収録されています。約5年前の雑誌なわけですが、だからこそ興味を持って買いました。「詩人がインターネットを語るとき」という対談が目を引いたのです。

 対談の面子は清水哲男清水鱗造鈴木志郎康、五十嵐健一の四氏。「詩の世界にとってネットってどうなんだ?」という硬くヒートな話はされていません。いきなり「パソコンって達成感があるよね」とか「挫折もある」とか「ソフトが変わっちゃうともう他人にアドバイスができない」とか。いたって普通です。掲示板でのやり取りや著作権についての話、ネット利用が拡大するとみんなますます本を買わなくなるのではといった話はハードになるかと思いきや、これらも「制御できない」とか「掲示板での話術は独特のものがある」といった、ネットホリックなら誰でも感づいてる、ごく普通の話にとどまっています。
 私は、それがとても面白かったです。こうした普通の話を普通にしている対談ってあまり読んだことがなかったですから。真面目な人(インターネットに夢を持ちすぎてる人や、ネットを野望に活用したい人など)は物足りなさを感じたでしょうが、私は読んでてとても落ちつきました。ネットに入った初期のころを思い出す、というのでもなくて。誰でも感じる基本的な話題をわいわいしてるのって、楽しいじゃないですか。全体的に明るいトーンでしたし、PC用語には注釈もついてましたし。
 内容があまりに普通で基本的だったのは、おそらく「2000年の時点だから」や「この雑誌・ある読者に向けたものだから」ではなく「対談の四氏の人柄や感受」がそうだったのだと思います。2000年らしい話は……そうだなあ、「ソーリー・ジャパニーズ・オンリーって書く人が今もうあまり居ない」とか「何でも検索できて驚いた」なんてぐらいかな。「憂鬱の鬱という字は、辞書でひくよりPCで出したほうが大きくて見やすい」とか「最近は手書きで字が書けなくなった」となんて話題もありました。にやにやしてしまいます、自分も経験があって。

   *

 もうひとつの対談「詩はボーダーを超えて」も面白かったです。面子は谷川俊太郎、正津勉、エドガー・ヘンリーの三氏。どうもこのころ朗読のCDなどが発行されたらしく、話は朗読や発声、スラムなどの方向が中心でした。そこから派生して「日本語には叙事詩はあるか」とか「五七調」についても話題に出てます。いま日本のリーディングは、方法というか定番というか……戦法みたいなものは参考も多いですしある程度選べる状況になっていますが、2000年の時点ではもっとたくさんの可能性が見えていたようです。
 また、ヘンリー氏はこんなことも言っています──

引っ込み思案で自作を朗読する習慣のない詩人たちを人前に誘い出すことになれば、とても良いことだと思います。
 ただ心配なのは、娯楽の面が強くなりすぎて、サーカスみたいになってしまうことですね。サーカスはサーカスでもちろんいいわけですけど。


──それから、谷川氏も──

 照れくさいということのもう一つの理由は、本来、一篇の詩作品というのはその詩人の一人称、「私」の声ではなくて、もっと、つまり自立した、作品として自立した声にならなきゃいけないのに、いまの現代史のほとんどは、若い連中なんかも多分含めて、なんか自分のぐちとか批判ばっかり言っていて、その自分の生の声を声に出すということが照れくさいんですよ。僕なんか『ことばあそびうた』は全然照れくさくなく読めるけれど、あれは全然、自己表現ではないものになっているからだと思うのね。


──と言っています。この時点で「詩の朗読」というものについて、可能性だけではなく、ある程度の構造的問題も知覚されていたということです。私がオフラインの場に露出し始めたのは2002年末からで、もちろんそれ以前からオープンマイクなどは各地にあった訳ですが、5年たっても根本的な問題は変わらないんだなあと思うとちょっと苦しいです。これらは100年たってもついて回る問題なのでしょうけれど。

   ◆

書名:季刊 詩の雑誌 midnight press No.8 2000年夏
発行:ミッドナイト・プレス
発売:星雲社
レーベル:文庫
2000年6月5日 発行
ISBN4-7952-0995-2 C0392(定価1000円+税)
posted by 若原光彦 at 01:30 | Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍
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