
童話……とも違います。主人公は会社員ですし、姫も魔法も出てきません。王様と主人公の対話編と言ったほうがいいかもしれません。もともとはドイツの地方新聞で連載されていたお話だそうです。挿絵が落ち着いた、クリアーな雰囲気でとてもきれいです。たまごみたいに腹の張った王様が気難しい顔をして赤いガウンを羽織っている姿は、文章での王様の偉そうなイメージそのものです。装丁もきれいで、カバーを外した中側までとても品があります。
余談ですが「いい装丁だなあ」と装丁者を確かめると、かなりの確立で「鈴木成一デザイン室」さんなんですよね。この本もです。
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話の始まりも終わりもはっきりとはしていません。しばらく前に「小指の先ほどの大きさの王様」が主人公のアパートに現れるようになった、というところから話は始まります。
主人公は王様に聴かれて自分たちのことを話します。「生まれたときはすごく小さいんだ。それが年をとるごとにだんだんと大きくなっていく」「それから人生のしまいのほうで、またほんのわずかだけ縮むんだ。そうすると死がやってきて、ついにはいなくなってしまうんだ」。これが王様には「そんなの非論理的だな」だそうです。「どうしてはじめにいちばん大きくて、次第に小さくなってきえていくってふうにならないのかね?」「おれのところでは、それがあたりまえなのだ」
王様の世界では、生まれたときは何でも知っていて、年をとるごとにいろんなことを忘れていく・とともに体も小さくなっていくのだそうです。
……という変な王様が主人公にいろいろ言います。なにせ王様ですし。外に連れてけとか想像力を働かせろとか。昼の会社員ほうが夢で、さまざまな夢のほうが現実かもしれないとか。通りに竜が居るぞとか。王様の部屋(本棚の裏にあって、もちろんとても小さい)に入って来いとか。
王様は偉そうですが、けっこう寛容なようです。わりあい素直な主人公に対し「ものを知らない相手に言って聞かせる」みたいな口調でしゃべります。だったらこうすればいいじゃないかとか、自分の頭で考えろとか……。
うまく伝わらないかなぁ。想像してみてください、あなたの部屋に王様が現れて「考えてもみたまえ」とか言い出し、思ったことを言うと「ばかにいい」とか言われる。王様の言うことはこっちの世界と逆、年をとるのは楽しいことらしい。気まぐれに現れては、クマのグミをかじったり、トラックのモデルカーに乗り込んだりしてる。
ユーモラスだけど、困るでしょ。でも居なくなったらきっとさみしい。でも最初からお客さんで他人で別世界の人で、いなくなっても仕方ない。変なつきあいです。
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リチャード・バックの『イリュージョン』とか、そういう属性の物語だとおもいます。上品に価値観をゆさぶって楽しませてくれる。ガチガチに作られているシステマチックな状況劇ではありません、王様も「そんなこと、おれにもわからないな」と言うことがあります。人生哲学ではなく、童話やファンタジーでもなく……ゆるく上品にこぢんまりと楽しい話です。変な状況なのだけれど、とても自然に感じます。どっかにこういう家もあるのかもしれないなあなんて。
……。うちにこの王様が現れたら……困るかな、うれしいかな。めんどくさいかなあ。とりあえず秘密にはしておくだろうなあ。
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書名:ちいさなちいさな王様
原題:Der kleine Ko¨nig Dezember
作家:アクセル・ハッケ(Axel Hacke)
画家:ミヒャエル・ゾーヴァ(Michael Sowa)
訳者:那須田淳(なすだじゅん)/木本栄(きもとさかえ)
発行:株式会社講談社
1996年10月15日 第1刷発行
1997年4月18日 第7刷発行
ISBN4-06-208373-6 C0097(定価1262円+税)
小さな王様、どこかにいるかもしれません。
私は小さい頃、赤いチョッキを着たアリを見ました。大きくなってから、それは胸のところだけが赤いアリだったということを知りました。
でも、洋服を着たカエルを見た記憶もあるのです。大きくなって図鑑を見ましたが、そういうカエルは載っていませんでした。だいたいそのカエルは直立二足歩行してましたし。小さい頃なので、夢と現実がごっちゃになっているのかもしれませんが。
だから(何がだからなんだかわかりませんが)、小さな王様だってホントにいるかもしれません。ぜひ私の家にも来てほしいです。毎日グミをたくさんあげるのになあ。
http://adansonian.blogspot.com/2011/06/richard-bach.html
レビュー書いたのでよろしければ。なんだか異次元の世界なんですよね。