2005年05月30日

書籍『魔法の杖』

 先月上旬に読んだ本です。もう十年以上前の本なんですね。たしかに話にネットも携帯電話も出てきていませんが……内容自体はまったく古びていないように思います。

   *

『サラダ記念日』『チョコレート革命』などで有名な歌人、俵万智さんの対談集です。コピーライター・歌人・詩人・作家・写真家・劇作家・批評家などが俵さんと対談した内容が納められています。

 よく知らないのですが、このころは俵さんが歌集『サラダ記念日』を出版し、話題になり騒動になり、山田洋次監督が『寅次郎サラダ記念日』なんて映画を撮ったり、テレビドラマにもなったり……俵さんはご自身と関わりないところで大きなうねりに巻き込まれていたようです。
 たとえば、読者の方から「あれは実話なんですか?」と聞かれて返答に困ったり。「簡単に作ってそう」と思われ、「泣きながら一首に打ち込んでる時だってあるのに」とくやしくなったり。歌壇からは、短歌に「カンチューハイ」なんて新語が入ってきていることに賛否両論されたり。……お察しします。私だったらたまらないだろうな。
 この時期、俵さんは「どう書いてるの?」「どう読まれてるの?」という表裏両面の質問・疑問を浴びまくっていたわけです。写真家さんとコラボレーションすれば「写真と短歌、どちらが先なのか」と思われ、歌集を読まれれば「歌の掲載順はどう決めているのか」と思われ、……やっぱり、たまらない。

 本書の対談は、そうした数々の疑問や反応に俵さんが答えていく内容が多くなっています。対談されているお相手の方がみなさん表現の知識のある方ですし、俵さんに理解的なので話はスムーズです。つまらない押し問答はありません。「俵さんは……」と分析的なコメントがあっても、それは失礼なものではなく、素朴な印象のものが多い。それに対する俵さんのコメントもまた、素朴でしっくりしています。

清水哲男 僕がいわゆる自由詩を選んだのは、俳句の世界の制約などを見て、「若造がやるもんじゃない」という気がしたからです。「俳句は老人の文学だ」と最初の詩集のあとがきに書いて、俳句の人から叱られましたけど。俳句はきちっと社会生活を営む、物のわかった人がやる文学だという意味なんですが。
 いずれにしても、自由詩というのは制約がない。かっこよく言えば、自分を律するということが一番難しい。お師匠さんはいないし、はっきり言って、詩の世界はいろいろな意味で手探りの状態で、近代詩だってまだ百年ぐらいですからね。つまり、自由。その中で自分なりに、今というものをどういうふうに定着していくか。
 とにかく定型がない、めちゃくちゃなわけです。僕はやっぱり、あえて俳句を捨てて短歌に行くというよりも、めちゃくちゃなほうへ行こうと……。何を書いてもいいんですが、だけど、意識としては僕は俵万智に迫りたい(笑)。
 短歌という器への羨望はありましたね。ビールのタンブラーというものがありますでしょう。そこに水を入れるようにピシャッときれいにはまりこむ。同じ水を入れるにしても、注ぎ方とかいろいろあって、俵万智に感じたのは、ああ、きれいにすっといってるなと。だから、ある意味でまったく違う世界ということも感じるんです、器という意味で。
俵万智 器という言い方がよくされますが、私は定型に何かを注ぎこむという感じではないんですね。自由詩は、自分を律するというか、いかに自分の内部のリズムを発見するかということが大変なんですね。短歌は五七五七七というリズムが初めからあると言えばあるので、その意味ではむしろ歌のほうが自由なのかなという気はします。自分の、何ていうことのない言葉を生き生きとさせてくれる「魔法の杖」、感覚としてはそういう比喩が気に入ってるんですが。
清水 僕みたいな外の世界の人間は「器」という言い方がわかりやすいから、使ってしまうのかもしれません。
俵 そうですね。ただ、器という比喩をしてしまうと、そこからあふれ出るものはどうするんだということになってしまう……。
清水 定型を「魔法の杖」とすると、自由詩は「普通の杖」(笑)。ラグビーで足をけがした人が松葉杖をけっこううまく使ったりする。


   *

 対談で文章が口語的なこともあり、とても読みやすい本です。詩歌などを創作されている方にはとても楽しめると思います。俵さんという作家・作品のイメージからなのかな、構えず気持ちよく「ああ、わかるわかる」と思えた本でした。

俵 私の歌集を読んで、女の子が「先生、なかなか、たそがれてるじゃん」と言ったんです。その批評が一番心に残っています。カラッとしているとか、軽いとかいう印象の批評が多かったんですが、なんとなく私自身も「たそがれている」というのは、なかなか言えている部分があるんじゃないかと印象に残っているんです。


   ◆

書名:魔法の杖
著者:俵万智(たわらまち)
発行:河出書房新社
レーベル:河出文庫文藝コレクション
1992年12月25日 初版印刷
1993年1月7日 初版発行
ISBN4-309-40356-5 C0192(定価580円 本体563円)
posted by 若原光彦 at 17:46 | Comment(1) | TrackBack(0) | 書籍
この記事へのコメント
はじめてコメントします。
俵万智さんの短歌は折に触れ読んでいたのですが、対談集は知らなかったので、読んでみようと思います。

清水哲男さんの、俳句の捕らえ方は、私の感じ方に近いと思いました。いま投稿しているポエムバーにしても、その制約のなかでは、俳句にも出来るけれど、季語は必要ないし、別に短くピリッと決めてもいいし、不真面目にも、甘ったるくも出来るけれど、その「自由度」の高さの分だけ、俳句でも川柳でも掬えない何か、が表現できるのかな・・・と。

参考になりました、ありがとう。
とこんなことを書いている私は、今日明日中にもweb
詩集に投稿する作品を仕上げなきゃいけないんですがね・・・こういう時に限って、ちがう詩のフレーズが
あふれて困ります。。。
Posted by 岡本はなびーる at 2005年05月30日 18:33
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