
私と相棒の男は、何千万かをもって会場の二階にいる。一階までは吹き抜けになっていて、下にはなにやら将棋のようなゲームをしている人々が見える。その中に一人、生気のない少女がいた。彼女も盤に向かい何かのゲームをしている。目つきといい表情といい生気がなくて弱々しい。だが人形の迫力とでも言うような、考えの読めない恐ろしさも感じる。他の人々に埋もれる弱々しく目立たない存在だが、見る者が見れば彼女の異様さには気付いたろう。
私と男はその会場に「人」を買いに来た。号令が飛び交い、オークションは進んでいったが、私がちょっと席を離した隙に……男は人々の中から少女を買ってしまっていた。私たちが来た目的、買う本命は他にあったのに。当然私は憮然とする。こんなハイリスクな奴を買うメリットがどこにある。だが男は詫びるでもなくニヤニヤ笑んでばかりいる。
会場の外のハイヤーに、男が少女を連れてやってきた。アジトへ移動する最中、車内で男が言う。
「四千万で買ったが、こいつは『ありがとう。その金は自分が返す』と言っている」
だからこれは損にはならない、と男はそんな与太をこぼす。私は言い返す。そんな話が信用できるか。これからアジトにつれて帰ってみろ、翌日には逃げ出されているのがオチだ。
私たちは車内で簡単な証書を作った。「逃げ出さない」「指示に従う」「四千万円を払う」といった内容だ。署名するよう少女に差し出したが、彼女は
「わたしは字が読めない」
と生気のない答をする。私はあきれた。
仕方がなく、私は車を止めさせハイヤーの運転手に証書を音読させた。私や男が読んだのでは不正が可能になってしまうため、第三者に読ませた。そして少女に
「これでいいなら署名しろ」
と紙を差し出したが、彼女が書いた名前は
【ワタキケ】
といった意味不明なものだった。どうやら書面の文章から、適当なカタカナを見繕い連結しただけらしい。どうやらこの子は自分の名前すら書けないらしい。私は苛立って
「おまえ名前は」
と訊ねたが、彼女は相変わらず生気のない表情のまま、何も答えなかった。
その後数日、私と男はアジトで少女の能力を調べた。私たちは少女をゲームの競技者として購入していた。競技会に出場し、賞金を得るためのバトルプレイヤー。いわば競走馬のようなものだ。
少女にいろいろなゲームやテストを出題し解かせるうち、この子の能力と問題が発覚した。彼女は非常に正確な入力をする。一度覚えた格闘ゲームのコマンドは出しミスることがない。もぐら叩きのような単純なゲームでは百発百中の正確さを見せる。操作にいっさいの狂いがない。手の覚えが抜群にいい。思った動作を瞬間的に正確に出す。
しかし、それだけではゲームは強くならない。正確に俊敏にコマンドを出せても、ゲームとしての駆け引きが計算できなければ勝負には勝てない。この少女のプレイはほとんどCPU操作のキャラと大差がない。対戦相手の心理やゲームのセオリーといったものをほとんど考えず、場当たり的な操作しかしない。これでは駄目だ。
考えたあげく、私と男は彼女をFPS(First Person Shooter。一人称視点の3Dシューティングゲーム)の競技者として育てることにした。どんな慣性のあるインターフェースでも、彼女はピタリと銃の狙いをつけることができた。少女の正確な操作能力と俊敏な入力能力なら、無敵のスナイパーになれるだろう。だがそれだけでは生き延びることはできまい。やはり作戦や効率、瞬間の判断と言ったものを学習させなければならない。
私は、彼女にどうやって作戦を教えればいいのか、と考えていた。いい名前も付けてやらんとな、と思った。
──と、そこで目がさめました。変な夢だった……。人を買うって。いかに夢でもそりゃあんまりだろう。
妙に物語として成立してたのも不気味でした。何かのプロローグという感じもするし、これはこれで終わりという気もします。なんだろ。ってそりゃ夢なんですが……。
……。続きとか見ちゃったら怖いな。パッピーエンドならいいけど。