はじめにひとこと。以下は、10月中旬に書いた文章を手直ししたものです。ブログに出そう出そうと思いつつ、長文でもあり直している余裕がありませんでした(このほかにも似たような感じでブログ用のテキストが溜まってるんですけどね……)。
この本、正月休みにもう一度読み返そうと思っていたのですが、いろいろ予定が入っていてそれどころじゃなさそうです。なので、今もう感想をアップすることにしました。
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念のため最初に書いておきますが、この本を読もうと思ったらまずは図書館で探してください。中盤をちょっと読んでみて合わなければ、読まない方がいいです。文章は淡々と情熱的で読みやすいのですが、内容は個性的な……というか、アクの強い本です。たぶん、合わない人には徹底的に合いません。
あと、近未来小説ではないです。『希望の国のエクソダス』みたいなものを期待されると煙に巻かれます。それがこの物語の真骨頂だと思うのですが……わかってはいても、読み進めるうちにその辺も期待してしまうんですよね。この本に限らず、近未来が舞台の社会小説って。
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SF小説です。二段組で500ページもあります。ぶ厚くて重い。こんな「いかにも長編小説の、本!」という本を読んだのは久しぶりです。アレックス・ガーランドの『ビーチ』以来かもしれません。没頭し、購入してから数日で読破しました。
どうしてこんな本を急に読もうと思ったのかと言うと。私は状況劇や近未来SFが好きなんです。『ビーチ』もそう思って読みましたし、ダグラス・クープランドや遠藤造輝もそうして惹かれています。まあ平たく言えば、理屈っぽく、かつ青臭くでシステマチックな話が好みだって事です。『なだいなだ』もそうかな。
今回、図書館や古本などではなく、書店で新品を購入して読みました。それも注文してとかではなく、書店を3軒まわって探して。……プロ作家の小説では初めての事なのですが、この本、作者のサイトを偶然に発見し、そこでの作品解説に惹かれてどうしても読みたくなったんです。
山本弘のSF秘密基地
http://homepage3.nifty.com/hirorin/
山本弘のSF秘密基地:仕事部屋:神は沈黙せず
http://homepage3.nifty.com/hirorin/messaagecm.htm
この人の本は『サイバーナイト(0・前・後・2)』『時の果てのフェブラリー』『ラプラスの魔』『時の果てのフェブラリー(新版)』の順で読んでいました。最初に『サイバーナイト』を読んだのが小学校高学年の頃でした。「四行原則」のシンプルさに感動し、でも何か足りないような気がして『これにあと付け足す必要があるとしたら何だろう』と数日考えあぐねたりしてました(その後ネットで『囚人のジレンマ』の概略を読み、『なんだあ、やっぱり四行原則(しっぺ返し)も最強じゃないんだ』とがっかりするような納得するような微妙な気持ちになりましたけど)。『時の果てのフェブラリー』で超能力者を「洞察力が鋭いだけの普通の人間」として描かれていたのも好きでした。
特に『サイバーナイト』は小説・SFC版・PCエンジン版で微妙にストーリーが違っていたり、PSの『アーマード・コア』に一部世界観が引用されていたりと、強く印象に残っています。学研の『科学』を購読していた少年にとって、数段上の科学への興味を(ま、フィクションなんですが)満たすものでした。空想好きで理屈っぽく本質論が大好きな私にはぴったりだったのでしょう。
好きな作家さんではあったのですが、著作はそう見つからないし『と学会』とかいう「他人の著作を笑いものにする面倒でこっすい企画」に関わってるみたいだし……しばらく離れていました。彼のSFは読みたいけど、その他の仕事や彼自身には興味がなく、時は過ぎ……失礼ですが、私にとってはもう「過去の人」になっていました。
とそこへ偶然『神は沈黙せず』の解説に出くわした訳です。『神がテーマって、それは俺の詩にも通じる話じゃないか!』『ぐああー! 読みてえー!』と心底思い、2日後には本書を購入してました。「たいてい本は古本屋で偶然買う」という私にしては珍しいケースです。
たいした下調べもせず書店をハシゴしたため、現物を見た時はちょっと引きました。不気味な表紙とロゴに「ベストSF2003国内編 第三位!」「人気作家、書評家から絶賛の声!」という真っ赤なオビ。でーんとぶ厚くて値段は1900円+税。『古本屋100円コーナーなら19冊も本が買えるな……』『絶賛って書いてある本ほどヤバいんだよな……』と一瞬よぎりましたが、結局はその場で買いました。
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ざっと紹介すると……と言っても、作者が個人サイトの作品解説で述べている通り「科学的にありうる神」を説明すべく書かれた小説、と言うことになるのですけれど。
補足しますと、ここでの「神」とは万物の法則を規定した「創造主」のことです。多神教の神も唯一神教の神も「ある真の神に作られたもの」とすると話がまとまってしまいますよね。そういう意味での「真の創造主」「絶対神」を論じたものです。なので、厳密には「各宗教を論破する内容ではない」と言えるかも知れませんが……実際にはそうはなっていません。ぼっこぼこです。キリスト教とカルト以外の宗教は世界情勢の描写のために出てくる程度ですが、どの宗教の神も主人公には信じられないものとして語られています。天国があるとは思えない、実際に世界は善が報いられ悪が滅びるようには出来ていない。主人公の神への不信感は一貫しています。
この物語は「本当の神を探す話」なのですが、そのためには既存の神を疑い続けなければならないのでしょう。読んでいて気が滅入る人も多いだろうなとは思いますが……テーマを描くためには当然そうなるでしょうね……。まあ、軽く取り扱える問題でもないですし……コテンパンになるのも当然なのかな。
この物語の世界では、超常現象が多発します。スプーンが曲がる、UFOが飛ぶ、霊が見えるなんてのはまだ良い方で、とつぜん空から氷の柱が降ってきたりもします。しまいには「神の顔」が空に出現します。狂気の沙汰です。
これにより主人公は「なぜ全知全能の神が悪を放置するのか?」という個人的私恨だけでなく、さらに「なぜ神は世界をこんなにめちゃめちゃにするのか?」「この世界の不条理を神は肯定しているのか?」「人間やこの世界は神にとって何なのか?」と苛立ち疑念を強めます。研究者の兄によって多少の仮説を得るものの、世界情勢は混沌さを増し、自身はメディアによる風説被害を受け、苦難の生活を強いられます。
節々にデータが山ほど出てきます。SFだから……というより、謎解きだから、なのかな。兄の仮説を検証すべく、主人公は過去の超常現象に関してかなり羅列します。口語的なダイジェストなのでそう面倒ではなく、むしろ『宇宙人って変なことするのな……』と面白く読めましたが、人によってはちと説明くさくて辛いかも知れないです。それら珍事件のトリビアも含めての本だと思うんですけどね。
データの中では「UFOの外観が時代によって変化してきた」という辺りが意味不明で読んでて混乱して楽しかったです。『それは何故?!』と登場人物に問い詰めたかった。最後にちゃんと説明がついたのですっきりしましたけど。読みながら『本当にオチがつくのかこの件……』と不安になりました。
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【重要 未読の方へ】
以下の感想は、ネタバレを含む可能性があります。
ストーリー展開を完全に記憶している訳ではなく、どこまで何をバラしていいものやらわからず書いているため、ネタバレしてるかしてないかすら自身が無いです。自由に書きたくて書いている感想なので、大目に見てください。気になるのであれば、以下は「全て」読まない方がいいです。
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読破して。総論としては……私はこの物語を「寓話」だと思いました。飛躍や比喩のあるなしで寓話っぽいと言っている訳ではなく、強い仮託によって構築されている、という意味でです。現実世界への不満や希望をぶちまけている(というか託していると言うか)。
例えばメディア批判や主人公の幼少期の部分は、神を探す謎解き自体には関係が無いため、もっと簡略化してもよかった筈です。主人公にしても、こんな地味な(でも根は強い)人間ではなく、もっとわかりやすくアニメチックで派手な、浮き沈みの激しい人間に設定することも出来たでしょう。しかし作者はそうしなかった。願いを込めるために、ひたすら現実の負の部分を引き合いに出し、地味な人間がそれに打ち勝つ話にした。テーマを書き尽くそうと必死になっている(南京大虐殺論争など、どうにも不要に感じる部分もありますが)。
私は寓話も書きますし詩も書きます。あるテーマをどう表現するかといった事をよく考えます。そうした者から見ると、この作品は非常に楽しめる、読んだ甲斐のある、伝わってくるものの大きい物語でした。
正直、オカルトや科学、経済や政治についてのデータや設定についての虚実は私にはわかりません。「神の正体」の仮説自体、十数年後には進化やコンピュータの研究者から「ありえない」と否定されるかもしれません。テーマや登場人物に共感するのはいいけど、細部のデータや設定については鵜呑みにしない方がいいでしょうね。
この作品のテーマを見るのではなく、細部──文章のテンポや匂い、章立て、本の値段、数値のズル、経済やITなどの考証など──にばかり注目すれば、非現実的さばかり感じられ、人によっては読んでいて冷めてしまうかもしれません。この作品は一種の「もしもの世界」を描いたものであるだけに、専門知識を持つ人からすると「『もしも』に現実味が足りない」という反応になるでしょう。本書のレビューで「読む人によって評価が分かれるだろう」と書かれていた記事をいくつか見ましたが、それは「データが何ページも羅列されることがあるから」「宗教を粉砕するから」ではなく、「現実味を感じるかどうか」「物語に入り込めるかどうか」の問題だという気がします(現実味=近未来のリアリティについては作者自身が個人サイトの作品解説で「これは未来予測小説ではない」と明言しているので、その点を問題にしてもどうなんだろうな、とは思いますけど。お金と時間を払って本を読んでる人は、そりゃあ当然そこまで求めるわなぁ……)。
蛇足ですが、人物のリアリティについても「主人公が女性らしくない」「主人公に共感できない」「登場人物が役を演じているだけのように感じる」といったレビューを見ました。……私は『そうかなあ』と感じています。序盤の主人公の幼少期から「誰にでも心当たりがありそうな日常的な風景」を出して導入にしている。葉月との出会いだって「彼女とは中学生の頃からの付き合いだ」の一文で大幅省略できるところを、長々と真面目に描写している。昴の子らのエピソードにしても、やや冗長なぐらいにエピソードを盛り込みその中に主人公を立たせている。これで主人公に共感できない、リアリティを感じないとしたら……共感の足がかり、作中人物の個性やリアリティっていったい何だろう。
おそらく人によってその尺度や感度はそうとう違うものなのでしょう。本当に蛇足ですが、大衆文学の難しさを学ばされた作品でもありました(この作品がダメだって事ではないです。私は主人公に共感できました。ただ、人によって違うんだなあ、ここまで書かれてあっても万人に通じる手法では無いんだなあ、と……)。
ちなみに、私が涙ぐんだシーンは主人公がMIBに詰問されるシーンでした。これは狂気・悪夢以外の何物でもない。不条理の局地です。スプーンが曲がるなんて痛くも痒くもありませんが、これは酷い。酷すぎる。たまったものじゃない。何様なんだ神様。
主人公が『ヨブ記』に怒るシーンも泣きそうになりました。主人公の怒りを私自身も持っていたためでしょう。私にとっては「神の正体」よりこの『ヨブ記』のことが印象的だったため、終盤でその謎が明かされたときには本当に嬉しかった。「ラストが唐突であっさりしている」というレビューもありましたが、『ヨブ記』のことがずっと頭に残っていた私には非常に満足のいくラストでした。ま、それこそ「信じたい情報が出てきたから、うかうか喜んだだけだろう」「人は自分が信じたいものしか信じない」と作者に言われてしまいそうですが。
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【重要 未読の方へ】
以下は、「本格的に」「確実に」ネタバレを含んでいます。
本書を未読の方は読まれないよう強く推奨します。
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作者個人サイトに掲載されている「まぼろしのあとがき」によると、この物語はメタ構造で書かれてあるとのことです。うっすらそんな感じはしていましたが、そう明言されてから読み直すと、なるほどと実感できます。
『出エジプト記』で神はエジプト王を悪しく操った。これは加古川のことでしょう。そしてユダヤの民はエジプトを出た。これはオーストラリアへ渡った優歌たち。さしずめモーゼは兄・良輔になるのでしょうか。『ヨブ記』との重ね合わせという点はもっと明白です。優歌がヨブであり、神とは著者のこと。神(作者)は加古川を罰し、優歌に報い、彼女にハッピーエンドを用意せざるを得なかった。
作者の山本氏が「あとがき」に書いているように、この「物語」は「現実の私達がより『まっとうな世界』を望んで作った世界」だと言えるのでしょう。
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書名:神は沈黙せず
著者:山本弘(やまもとひろし)
発行:株式会社角川書店
2003年10月31日 初版発行
2004年9月3日 5版発行
ISBN4-04-873479-2 C0093
本体1900円(税別)
2005年12月17日
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