2006年03月05日

『39@rt』プレゼント

 こんなものを作っていました。自分の『いのり履歴』をボトルにパッケージしたものです。1品のみの限定品です。
 みためはシンプルです。手のひらよりちょっと大きいぐらいの容器に、細い紙がたくさん入っているだけ。紙には短文が印刷されており、重なり合った紙の隙間から「あなたが〜でありますように」といった意味深な言葉がちらほら見えている。なぞの物体です。おみくじではありません、詩集や格言集でもありません。かつ、そのどれでもあり得ます。でも狙いとしては……これ、シールです。

   *

 これを作るにあたって、私はまず空のボトルと耐水シール光沢紙を購入しました。その際、紙はともかく、容器が難題でした。自分がイメージするような大きさ、形、透明感のものが見つからなかったんです。ガラス壜はカッコいいけど、重いし大きすぎる。ピルケースや小物入れだと、紙同士が重なって見えないし、手元に置きたい感じがしない。もっとこう「置けばクールなオブジェになり、手に取れば無宗教のおみくじになり、ふたを開けば小詩集として読めて、持ち歩けばオモチャになる」という千変万化の器が必要だったんです。威圧感や演出のまったくない、とことん無色無属性の入れ物が。
 結局、このちょうどいいボトルが見つかって万々歳となったんですけど(イメージが壊れるので何の容器かは秘密です。変なものではないですよ、ちゃんと新品で買ったものです)。……苦労しました。実体のあるアート作品なんて作ったの何年ぶりだろう。イメージする完成図を実物で再現するのって、思っていた以上に大変でした。『紙はプリンターで刷ればすぐだし、容器も100円ショップで簡単に手に入るだろう。2時間たたずに完成できるだろう』、そんな目算は誤りでした。アート作品って大変だ。見えない部分で手間がかかります。
 でも、あきらめずに容器を探してよかったです。満足いくものができました。

 ボトルと紙を買って帰り、プリンタでシール紙に文を刷って……ここからがまたちょっと手間でしたけど。プリントアウトした紙を小さな227の断片に切り分けなきゃならない。1つ切るのに5秒とすると、1分で12片、1時間で720片。『おお、余裕だ』……って、もちろんそんなロボットみたいにコンスタントにいく訳がなく。1時間かかってやっと半分……終わらない。とても2時間じゃ終わらない。
 買い出しを別にして、結局4時間ぐらいかかりました、これ作るのに。

   *

 これ、いったい何なのかというと。シールです。『いのり履歴』のフレーズが印刷された、線状の小さなシールです。
 「それはもう聞いたよ。なんに使うのよ、それ」ってごもっともです。でもね、これはただの紙じゃないんです、シールです。ですから貼ればよろしい。ぺたぺたと。200以上も入ってるんだから、ちょっとぐらい使ってもすぐには尽きません(ただし1フレーズは1個しか入っていないので、あらかじめ全フレーズを調べ残したいものは確保しておく必要があります……って、そんな細かいこと気にせずバンバン使ってほしいかなぁ)。
 「ちょっとちょっと。『いのり』フレーズのシールなんて誰がどこに貼るのよ。手帳に貼ってもなんか変でしょう」。そうです。無表情でちょっと不気味なセリフばかりだから、自分の手元に貼ってもあまりメリットはありません。むしろ害があるかもしれない。

 『いのり履歴』のフレーズは、紺色の文字で印刷しました。が、このボトルには赤色の文字のシールも混ざっています。赤色のは「取扱説明書」です。1番から20番までの説明書きがこのボトルには混ざってます。手に取った人が「ん? 赤いのがある。番号がついてる。なんだろう……」と思ったら、ボトルを開けて、全部のシールを検分し、取扱説明書を揃えないといけないわけです。踏み込まないと謎は解けないけど、踏み込めば用意された答は見つかる。
 取扱説明書には、こんなことを書いておきました──

(1)赤字は取扱説明書です
(2)これはシールになってます
(3)いちおう耐水です たぶん濡れてもにじまない
(5)標識を見つけたらこそっと貼ってみましょう
(6)さみしげなベンチを見つけたら貼ってみましょう
(7)他人の背中に貼ってみましょう
(11)意味を聞かれてもしらんぷりしましょう
(12)古本屋に売る本に貼りましょう
(18)飲食店でテーブルの裏に貼ってみましょう

──そういう使い道を想定したものなんです、これは。誰も気づかないところに、そっといのりの言葉を貼りつけてニンマリと愉快な気持ちになれるツール。罪はない。意味もない。ただ、何かさいわいな気分になってもらえたら嬉しい。ためしに1個どこかに貼って帰ってくればわかります。見慣れた風景がいつになく鮮やかにドキドキして見えてくるはずです。
 くだらないと言えばくだらないけど……かさばるものでもないからゴミにはならない。手元に置いておけば、いずれ使う機会が来そう。でも使ってしまうのはもったいない気もする。と……。

 そんな微妙なものを作ってみました。使い捨てであり、永久保存版であり、ちょっとした発明品で体験型アートで小詩集でオモチャです。これが誰の手に渡るのかはわかりませんが、もらった人が帰り道で紛失したとしても、私は残念に思いません。それもひとつの使い方だという気がします。そういうものです。

   *

 なんでこんなものを作ったのかと言うと。私は来週9日(木)、名古屋「東山公園」駅そばの『clubBL』さんで『39@rt(サンキューアート)』というイベントに出演するんです。
 そのイベントではお客さんにクッキーがふるまわれるのですが、そのクッキーはクジ入りになっており、当たりが出ると出演者から作品がプレゼントされます。……このボトルはそのプレゼント用の作品です。イベントまで日がない中で慌てて作ったものですが、ほれぼれするほどスクッと綺麗に出来上がりました。
 ま、『完成したてほやほやだからか……ちょっと自画自賛が過ぎてるかな』という気もしてますけど。小粒でおもしろいものが出来たと思います。悪くない。

 ひとつだけ難点を挙げるとすれば「1片が小さいのでシールの裏の紙が剥がしにくい」ってことでしょうか。これは完成してから気づきました。手先の器用な人に渡ってくれるといいんかなあ。人を選ばないものを作ったつもりだったんだけどなあ。
posted by 若原光彦 at 02:26 | Comment(0) | TrackBack(0) | アート
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