・2008年9月、八事オープンマイク『詩のあるからだ』開催日。軽く早めの夕飯を取り、17:30に家を出た。本当は17:00に出るつもりだったが、支度に手間取り遅れた。
・家を出てすぐ、違和感を感じた。自転車の後輪がやけに跳ねる。跳ねるというより「衝撃を吸収していない」と表現した方が実感に近い。走行状態のまま(見晴らしのよい田畑の間の道で、接近する通行者や車がないのを確認した上で)振り返り後輪を見たが、パンクしているわけではなかった。後輪のエアーが減っているらしい。
・家に戻って空気を入れ直している暇はない。そのまま駅まで漕ぎつけ、駅そばの駐輪場で空気入れを借りた。
・JRで金山へ向かう。自動改札にTOICA(トイカ。JR東海のICカード)を押し当ててから、残金不足ではないかと不安になったが、その心配はなかった。先日の『詩のボクシング三重大会 in 鈴鹿』の際に入金した余りで、今日の往復はまかなえそうだった。
・電車を金山で降り、改札を出て、すぐ端で立ち止まった。金山駅の改札外すぐの売店では『CHERRY』が売っている。普段『echo』か『Peace(ロングピース)』を吸っている私だが、金山で降りる用事がある際はここで『CHERRY』を買う。名古屋に来たついでの、私なりのささやかな贅沢だ。
・しかし私は今、改札を出てすぐ左側にいる。売店は改札の右側だ。売店の側に行くには、改札から抜けてくる人の間を横切らなくてはならない。
・人と人の間が広がっている部分へ追走し、さっとすり抜けようとしたが、背広姿の男性が隙間を埋めるような(他の人よりも早足な)速度で近付いてきていた。ここで私が立ち止まってしまっては、男性だけでなく、他の人の流れまで止めてしまうことになる。私は速度を上げてそのまま通り過ぎた。その瞬間、背後で男性の舌打ちが聞こえた。
・地下鉄金山駅へのエスカレーターに乗りながら、私は舌打ちについて考えた。私は何かあった際、瞬間的に、即応的に舌打ちが出せるだろうか? パッと舌打ちできるのは、普段から舌打ちをする習慣(癖)がある人だけではないのだろうか? 指を鳴らす行為(いわゆる“ゆびパッチン”)も似たようなところがある。誰でも意識すれば出せるが、瞬間的にパッと出せるものではない。
・苛立ちに舌打ちをする、という、まるで漫画のような仕草をとる人間が本当にいるなどとは、これまで私は考えてはいなかった。人間はそんなに単純ではない、絵に描いたように、映画のようにフィクションのようには生きていない、と思っていた。だが、現実にいた。私は、自分が舌打ちを食らったことでも、自分が舌打ちをさせてしまったことでもなく、「本当に舌打ちをする人間がいるのだ」ということに驚いていた。
・金山で地下鉄に乗り込むと、左(列車後方)から、女性が車内を歩いてきていた。座れる席をどこか探しているのかと思ったが、違った。女性はひとつ空いていた席を無視して通り過ぎていった。なんだろうと思いつつ、私はその空いていた席に座った。席の左には新聞を読んでいる老女、右には文庫本を読んでいる男性が座っていた。
・他人と非常に近い状態であるので、私はMP3プレーヤーの電源を切った。ボリュームを絞ってあるので音漏れの心配はない筈だが、念には念を入れて。私はMP3プレーヤーを片付け、鞄から本を取り出し、読み始めた。
・途中の駅で、幾人かの乗客が降りていった。と、座席がだいぶ空いた所で、私の左にいた老女が腰を浮かし、もうひとつ左に位置を変えた。右の男性はもうひとつ右に位置を変えた。左右の二人ともが私からひと座席だけ遠ざかった。名古屋が嫌になるのはこういう時だ。そんなに他人の傍が嫌なのか? 私が臭いとか、明らかな理由があったのなら当然だけれども。まさか。
*
・八事から岐阜への帰り。私は本を読みながら地下鉄で移動し、金山駅に着いた。JRに乗り換えねばならないが、大垣行きの普通(各駅停車)が1分後。大垣行きの快速が5分後。どちらにするか迷った。読みたい本があるのだから、多少時間がかかる各駅鈍行でもいっこうに構わない。普通でも快速でもどちらでもよい、座れさえすればよい。
・とは思ったが、ベンチに座って一息ついたすぐに普通列車が訪れた。何故だかベンチから立ち上がる気がせず、私はそのまま普通列車を見送った。
・幸い、次の快速列車でも席に座ることはできた。ただし、端の、4人席になっている部分だった。私は気にはならないが、私が席に着こうとすると、正面の男性(大学生または専門学校生のようだった)が一瞬、顔をムッとさせた気がした。気のせいだろうか、と特に理由もなく条件反射で視線をそちらに向けると、もう男性は顔を窓側にそらして携帯電話をいじっていた。
・金山では私の右側は空席だったが、次の名古屋でサラリーマンの男性がそこに座った。男性は携帯を取り出し、なんらかのゲームをプレイし始めたようだった。そして男性は、しょっぱなに5回、鼻をすすった。そして咳をし「ゴッ・ムウン」と喉を鳴らした。
・開いた本へ向けていた私の視界の端に、男性の靴が見えた。男性は黒いスラックス、半そでのワイシャツにノーネクタイという、名古屋でよく見るタイプのサラリーマンに見えたのだが、靴は運動靴だった。おや、と思ったが、頭髪に白いものが混じっており、夏服の男子中高生というわけでもなさそうだった。失礼だが「いまひとつ像を結ばない人だな」と思った。
・と、男性がまた咳をし「ゴッ・ムウン」と喉を鳴らした。この咳と異音のコンボは、この後、数十分間、断続的に続くことになる。そしてそのたびにタマネギでもニンニクでも汗でもない、形容しがたい悪臭がした。病気の時、過度のダイエット中など、人間の吐息は体調によって臭くなることがある(もちろん単に食べた物の臭いという場合もあるが)。数秒ごとに咳と異音を発している男性は、どうも風邪をひいているらしかった。風邪をひいている人間に対して臭いだのなんだの、と思うことはよくない。気にはなったが、耐えた。
・私はついおとつい風邪をひき、つい昨日治したところだった。閑話になるが、その際、思い当たる理由もなく、右目だけが充血した。最初はやや違和感を感じた程度で、私は「風邪薬のせいで眠くなりつつあるのだろう。なぜか右目を中心に睡魔が襲ってきているのだろう。だから右目だけまぶたが降りがちになっているのだろう」と考えた。しかし明らかな痒み(炎症)だと体感できるようになり、鏡に顔を映すと右目だけ白目が毛細血管で赤ばんでしまっていた。下まぶたを指で押すと、目とまぶたの間の部分(あかんべをすると赤く見えるあの部分だ)に白い糸状のものが見えた。結膜炎の時に出るあれだ。洗面器に水を張り、右目を洗ったが違和感は消えない。むしろ酷くなっている。こんな状態では何もしていられない。やむなく、早すぎるが寝た。目覚めた次の一日つまり昨日は、まだ赤みも違和感も取れていなかったが、翌々日つまり今日(2008-09-10)になって違和感はほぼなくなった。ただし、まだ右目だけ視界が時折ぼやける。目を開いている間は何も感じないが、両まぶたを閉じると右目だけに微弱な痒みもある。気になるほどではない、このままにしておけば完治するだろう。閑話休題。
・JRを降り、近くの中古屋へ向かった。先々週あたりに立ち寄った際、あるマイナーな名作ゲームが傷アリ3000円という破格になっていた。プレイしている暇がない、とその時は買わなかったが、後になってやはり手に入れておきたくなったので向かった。しかし店はもう閉店した後だった。夜22時台なのだからしかたない。昔は23時まで営業していたのだが。
・自転車を漕ぎ家の方角へ向かったが、途中で気が変わり、家への近道ではなく、直進の道を選んだ。その先にあるファミレスに入り、今日ずっと読んできた本の続きを読むことにした。普段は地元のファミレスを使うことなどめったにないが、名古屋から戻った時だけ、こういう気分になることがある。そのまま家に帰る気がせず、かといって無駄づかいする気もなく、手ごろな居場所にファミレスがある、という。
・まだ22時台ということもあり、店内は賑わっていた。ドリンクバーと雑炊を注文し、ホットココアを飲みながら読書にふけっていたところで雑炊がきた。とりあえず落ち着きたかったのでホットココアを取ったが、これを飲み干したらコーラなり、メロンソーダなり、アイスドリンクにしようと思っていた。そしてそれはすぐだろうと思っていたが、予想に反して雑炊が早かった。ホットココアに雑炊。まあ、いい。あまり気にせず右手で雑炊を口に運び、左手で本のページをめくった。合間でたびたびココアを口にした。
・1〜2時間ほどして本が佳境に入ったころ、窓の外からバイクの音(原付の免許を持っているが運転をほとんどしない私には、それがエンジンの音なのかマフラーからの廃棄音なのか、両方なのかわからない。ともかく駆動音だ)が聞こえた。夜だからかやけに鮮明に響く。と、私の真後ろでテーブルで「誰や!」と叫ぶ声がした。どうやら、私の後ろにいた客が、私の肩越しに窓を見ながら叫んだらしい。にしても、バイクの音に対して「誰や」とは何だろう。
・そののち、私の背後の客(10代後半〜20代前半ほどだろうか、男性4名)の中から「暴走族に入っとらんとわからんこと」といったフレーズが聞こえた。なるほど。私はこれまで深夜にファミレスにいる客とはどういう人間なのか、自分以外いまひとつよくわからなかったが。暴走族やその類(たぐい、という表現は失礼だが)というのはありうることだ、と思った。
・なお、別のテーブルから聞こえた話し声としては「タイヤ交換してたら」「仕事中でも話しかけてくる」というものがあった。自動車修理工か、タイヤ屋か、そうした仕事の同僚同士が集まって愚痴を言い合っていたようだった。
・さらに2時間ほど経った。本は残り6分の1ほどになり、このまま閉店の5時まで居座れば読破することも充分できたが、私は帰宅することにした。時間が遅くなり客が減り、店内は静かになっていた、しかしなぜだか、私は読書に集中できなくなりつつあった。疲労ではなく、どちらかというと無関心がもたげてきたような心境だった。本自体はとてつもない名書なのだが、真剣に向かい合う気力がわかない。あくまで言葉を追い、その意味を把握していけるだけだ。こんな読書は面白くないし、この本に対してももったいない。
・席を立ちレジに向かったが、レシートを忘れていたのでいったん席に引き返した。清算を済ませ、いつだかと同じく「次回お使いください」とドリンクバーの割引券を渡された。どうでもよいがこの店はいつも、この割引券を2枚渡してくる。1回の利用で2枚を受け取るわけで、仮に次回1枚を使用したとしても、もう1枚は未使用のまま余ることになる。かつ、その次回利用時にもやはり2枚渡されるわけだから、この調子でいけば私の受け取る割引券は1利用ごとに1枚ずつ増える計算になる。これは「誰かと来て2枚使え」という無言のメッセージなのだろうかと考えもしたが、真相はわからない。
・ファミレスの駐輪場で自転車の鍵を外し、前かごに鞄を入れようとしておやと思った。かごの中にゴミが捨てられている。
・私は自転車のかごに、雨の日に鞄を雨から守るためのビニール袋を入れている。晴れの日にも入れっぱなしにしているのだが、これがゴミを呼ぶらしいのだ。人間、きれいに整った所ではポイ捨てする蛮勇をくじかれる。反面、やや雑然としたところへは平気で投げ捨てられてしまう。駐輪場に自転車が並んでいても、ゴミを投げ入れられるのは「あらかじめ小汚いビニール袋が入っている」私の自転車のカゴだったりするのだ。
・その場合、たいてい入れられているのは空のペットボトルだ。しかしこのときは違った。マイルドセブンのカートンを破いた紙、レシート数枚、そして伝票のようなもの1枚。こんなものが入れられているのは初めてだ。私は丸められていたレシートと伝票を広げてみた。
・伝票は、タイヤ屋(タイヤに限らず自動車関係全般、修理点検も行っているところだが)の納品書だった。車種はクレスタ、色はパールと記入されている。商品名の部分には、デッキ点検、純正、CDが出てこなくなった、と書かれている。金額はNC。このNCが何を意味するものなのかは私にはわからない。
・その他のレシートも同一人物のものだとして、取りまとめて考えるとこうなる。2008-09-07(日)12:01、ディスカウントストアにて『パルティターンカラーディーフ』598円を購入(ターンカラー、おそらく染めた毛を黒髪に戻す薬剤だろう)。2008-09-07(日)17:30、先の伝票のタイヤ屋でクレスタの納品を受ける。2008-09-08(月)00:42、名古屋高速道路公社、庄内通料金所にて750円支払。2008-09-09(火)15:42、私の近所にあるコンビニエンスストアでハムカツサンド240円を購入。以上だ。
・先の伝票には、車種、色、作業内容だけでなく、この伝票の受け取り主の名前、住所、携帯電話番号、カーナンバーまで記されている。そこまでブログで記してやろうか、と思わなかったと言えば嘘になるが、それを実行しないことが私の良心を、善さを証明するのだと、自転車を漕ぎながら誇りに思った。そしてすぐさま、その発想自体が俗悪、卑小、負け犬根性以外の何物でもないということを悟った。私も下らん小者に成り下がったものだ。
・しかしさておき、このわけのわからぬ一日は、これはこれとして愉快と言えなくもなかろう、と、素材にすることに決めた。全く無意味な内容ではあるが、ともかくも平凡な或る日の風景として、のちに何らかの価値を持たないとも限らない。それに、私は近ごろこうした感情も冗談も抜いたザバけた文章に心地よさを感じている。ひさびさのブログの題材としては格好だろう、と思った。
・家に着き、上記についての簡単なメモを書いてから、眠った。
*
とまあ、そんな日でした。昨日の晩は。
あ。思い出しました。そうそう、最初はこれを書こうと思ってたんだった。なんか上記うだうだ近況の方がメインになっちゃいましたけど。
約2年前に書いた記事のカット画像に使ったネコなんですけれども。近ごろは見かけなくなりました。
が。同じ毛色のネコはよく見ます。でっかいです。普通のネコの1.2倍ぐらいある。たまにだら〜んと伸びて庭先に寝てる姿を見かけます。同じネコだとしたら……うーむ。時が経つのは早いものだ。
写真はまだ撮れてませんけど、もし撮れたらまたカット画像で登場してもらいましょう。……けど毎日会うわけじゃないからねぇ。撮れるかなあ。どっかその辺には居るんでしょうけどねぇ。
2008年09月11日
この記事へのコメント
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Posted by モンクレール メンズ at 2014年11月22日 22:02
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